初版へのまえがき

 この本の内容は1983年1月から1986年3月まで,「文法の散歩道」というシリーズとしてLa Movado誌に連載したものです。
 「散歩道」という名前の示す通り,筆者が思いつくままにテーマをとりあげて論じる,言わば「文法雑談」が当初の意図でした。連載が進むうちに学習的な色彩がだんだん強くなってきましたが,決して系統的な文法講座ではありません。随筆的な要素も強いため,筆者独自の意見や,やや冒険的な語法の提案があったりします。また,「関西弁とエスペラント」などという,本筋から離れたおしゃべりも中に混じっています。単行本として出版するに当って,そういった部分を整理してしまおうか,とも考えましたが,むしろいろいろな要素を含んでいた方が読み物としてはおもしろいか,とも思い,敢えて手を加えませんでした。
 連載中は編集部の宮本正男さんをはじめ,愛読してくださった読者のかたがたからも随分と励ましを受けました。この本が世に出ることができたのは,そのおかげです。この場を借りて厚くお礼申し上げます。
 日本のエスペラント運動には,残念ながら,まだ系統的な文法学習書がありません。いずれそういうものを執筆してみたい,という希望だけは筆者も持っているのですが,それが実現するまでのあいだ,この「散歩道」が僅かでも文法学習の手引きとして役立てば幸いです。

1986年5月13日

小西 岳